小沢健二@春の空気に虹をかけ

小沢健二@武道館、2日間行ってきました。
その前の週にはJOY-POPS@クアトロもあり(これはまた別にじっくり書きます)、はからずも自分に多大な影響を与えた方々を続けてみるという至福の時であったわけです。

今回音響の面で言えば国際フォーラムがベストなわけですが、やはり96年以来の武道館公演というのが自分的にはどうしても見たかったわけで。あの時現場で感じたものが22年の時を経てどうなっているのか、さらに言えば2010年の復活以来マイペースで進んできた彼が8年の時を経て今何を見せてくれるのか、期待と不安がないまぜになった心持ちで北の丸へ向かいました。

結論から言うとこの8年間積み重ねてきたものが最高の状態で表されていたということ、そして22年前に同じ会場で鳴らされた曲達も風化することなく、もはやスタンダードとなった重みを携えて鳴らされていたということ。

過去と現在を見事に繋ぎ、その先へと向かう姿勢が示された素晴らしいライブだったと思います。

2010年の復活以降、いわゆる「未発表曲」が演奏されない初めてのツアーでもありました。前回「魔法的」ツアーで披露された7曲のうち、シングルとしてリリースされた「流動体」「フクロウ」「シナモン」以外は今回ナシ。
新しい何かを見せるというよりは、皆が知っている曲を届けたい、共有したいという思いがそこに感じられました。

オープニングは「アルペジオ」。この語りの部分については僕は今でも納得がいっていないのですが(なぜあの頃を語るのに知り合いのプライベートを持ち出さなければいけないのか、ライブを見てもやはりわからない。わからないというかあぁこの人は自分がこれイイ!と思っちゃったらもう全力でやってしまう人だったなぁというのを再確認したというか)、オーラスでもこの曲をやったところから、本人的には今すごく伝えたいことなんだなぁと感じました。

自分的ハイライトは2箇所。
「いちごが染まる」-「あらし」-「フクロウの声が聞こえる」
そして
「強い気持ち強い愛」-「ある光」-「流動体について」

「いちごが染まる」は復活ライブ以降初めてステージで演奏されたはず。
空白の時間に彼が何を思っていたかがくっきり描かれた曲で、トロピカリズモからの影響を感じさせる新境地だなと当時思っていたのでした。
「あらし」はeclecticからの曲。復活後のツアーではこのアルバムから最低1曲は演奏されていたのですが、今回はこれできたかと。昨今のソウル、R&Bブームを先取りした画期的な作品だったわけですが、16年前にリリースされたとは思えない新鮮味が今聴いてもあります。
「フクロウ」は魔法的ツアーのアレンジではなく、セカオワバージョンに寄せた感じ。5/3の一番最後にも演奏されたことからもわかるように、今彼が一番伝えたいことがこの曲の中に詰まっているなと感じました。そういう曲はきまって尺が長くなるんですよね。大事なパートを何度も繰り返す。
隠遁生活中、そして復活直後は何かとアンチ資本主義的な言動が目立っていたのですが、徐々にそうした態度も柔らかくなり、もっとマクロな視点で大きく事象を捉えてくるようになった、その包容力が遺憾なく発揮された内容だし、2日間共演奏もうたもめちゃくちゃエモかったです。

 そして「強い気持ち強い愛」ブロック。
「強い気持ち強い愛」は京平先生のペンになる曲。リリースは1995年。それから8年後にリリースされたTOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」で、京平先生はなんと5年代連続でチャート1位を獲得するわけです。
よく聞くとわかるのですが、この2曲はサビのコード進行がとても似てます。
「強い気持ち」のサビで「AMBITIOUS JAPAN!」が歌えてしまいます。
今日はなんかそんな両者の事を考えながら聞いてしまいました。
もちろん「強い気持ち強い愛」は僕的にはオザケンベスト3に入る傑作です。

「ある光」
東京の街が奏でるツアーでも披露されましたが、その時は変則編成だったので正直「ええー….」という感じでした。
今回初めてフルバンドで、しかもストリングスを背負ってとんでもなくゴージャスな体裁でこの曲が披露されたことは本当に感激したんです。
自分にとってオザケンベスト1の曲なので。
リリース当時、その後「春にして君を想う」を最後に隠遁生活に入ってしまったこともあり(「ある光」で消えたと思っている人多いですがそうではないんです。)何か遺書めいた内容だし、ものすごく切羽詰まった言葉に胸がかきむしられたんですが、その曲がまるでネガポジ反転したかのように聞こえてきた事に彼の充実ぶりを感じずにはいられませんでした。
峯田君ありがとう!と言いたい。

そして「流動体について」につながるわけです。
この2曲は失われた時を繋ぐミッシングリンクとなっているのはファンなら誰でも知っているのですが、それが今回初めて続けて披露された。
もう何かを感じずにはいられませんよね。
完全復活、という言葉が脳裏をよぎりました。

そしてアンコールで「春にして君を想う」がストリングスアレンジを加えて演奏されるわけです。
服部先生のローズ、満島ひかりとのダンスと共に。

23年前の武道館と今回の武道館、両方参加していたのは服部先生のみ(ストリングスの方々で被っている人がいるかもしれません)。
丁度5/2が命日だった青木さん、そして、真城さん、木暮さん、スカパラホーンズの面々もいない。
時の流れを感じずにはいられなかったのですが、でもこの曲で服部先生がソロを奏でてくれた事に何かを思わずにはいられませんでした。
彼は何も言わなかったですが、青木さんへ捧げていたのかなぁ、とか….。

そして、満島ひかりさんについて。
僕個人的に彼女の大ファンなので大変嬉しかったです。
彼女が小沢健二についてなんの先入観もなく、才能あるアーティストに誘われたので一緒にやりました、というニュートラルなスタンスだったのが良かったです。
モンドグロッソの時と同じスタンスなのかな。
そういうところがいい。
「ある光」で彼女が弾いたキャンディアップルレッドのテレキャスター、あれは天気読みのジャケットで小沢が持っていたものだと推察されます。あのギターにまた会えたのも嬉しかった。

歌い手としてもパフォーマーとしても超一流でした。
惜しむらくはキーが厳しい部分が何箇所かあって、それはまぁしかたないのですが、なんかもうちょっとどうにかしようがなかったのかなぁと。高すぎたり低すぎたりするところがあって勿体なかった。
でも「僕らが旅にでる理由」でのMVをなぞった演技とか、「春にして君を想う」の優雅なダンスとか、ドラマや映画で見ている彼女そのまんまでほれぼれしてしまいました。

さて、彼は次に何を見せてくれるのでしょう。
今から楽しみでなりません。